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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1491号 判決 1995年12月01日

控訴人

轉堂タマコ

右訴訟代理人弁護士

森川明

被控訴人

株式会社夏原染織

右代表者代表取締役

夏原孝一

右訴訟代理人弁護士

中田順二

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

主文同旨

第二  事案の概要

一  呉服染織品製造販売を業とする株式会社の被控訴人は、藤原スエコに対し、平成四年一一月一二日から平成五年一二月一〇日まで、呉服等の商品を売り渡したが、そのうち一三五万八四六九円が未払のままである(甲二号証、証人藤原スエコ、被控訴人代表者、弁論の全趣旨)。

二  争点

控訴人と被控訴人との間で、藤原スエコが被控訴人から買受ける商品代金債務についての連帯保証契約が成立したか。

1  被控訴人の主張

被控訴人は、藤原スエコを通して控訴人に対し本件取引について保証人を入れるように申し入れていたところ、それに応じて、控訴人が連帯保証人になるとの手紙(甲一の2、以下「本件手紙」という)により、連帯保証人となることを承諾する旨意思表示することによって、被控訴人と控訴人との連帯保証契約(以下「本件保証契約」という)が成立した。

2  控訴人の認否

被控訴人から控訴人に対する本件保証契約の申込みはなかった。本件手紙が控訴人の被控訴人に対する保証契約の申込みであり、被控訴人がその申込みを承諾せず、本件保証契約は成立しなかった。

理由

一  甲一号証の1・2、甲二ないし四号証、証人藤原スエコの証言、控訴人本人・被控訴人代表者各尋問の結果によると、次の事実が認められる。この認定に反する部分の被控訴人代表者各尋問の結果は採用できない。

1  呉服小売商を営んでいた藤原スエコは、被控訴人から呉服等を継続して、代金後払いで仕入れたいと申し入れたところ、被控訴人から保証人が必要であって、これがなければ、取引をすることができないから、保証人をつけるようにと告げられた。この時点では控訴人からは保証人候補者の名は挙げられなかった。

2  そこで、藤原スエコは叔母の控訴人に、右の事情を説明し、右取引につき保証人になって欲しいと依頼した。

3  控訴人はこの依頼を承諾し、「藤原スエコとのお取引につきましては、全免的に責任をもたせて頂きます。どうぞよろしくお願い申上げます。」(原文のまま)と記載して署名した手紙(甲一号証の2)を藤原スエコに渡した。藤原スエコは、この手紙を平成四年一一月三日に被控訴人へ速達便で郵送し、この郵便は同月四日に被控訴人に到達した。

4  被控訴人代表者夏原孝一は、藤原スエコに電話し、控訴人は藤原スエコの叔母であって、六八才で年金を受け、そごう百貨店に勤めていることを確認した。夏原は控訴人は高齢で保証人に適しないから、他の人を保証人とするように述べ、藤原スエコはそれなら、寿司屋をしている姉はどうであろうかと述べると、夏原はそれなら良かろうと述べた。夏原はこの電話会話のすぐあとで、右3の手紙の控訴人の署名の横に「叔母」、「◎すし屋さんにしてもらうこと」(原文のまま)と記載した。

5  そこで、藤原スエコは控訴人に対し、右の被控訴人との会話内容を伝えた。そして、岡山市ですし屋を営む姉安井滝代に右取引の保証人になってくれるように依頼した。安井滝代はこの依頼を承諾し、「藤原末子の事ですが、全面的に私が責任をもちます。これからの取り引をよろしくお願い致します。」(原文のまま)と記載し署名した書面を作成し、同月五日これを被控訴人に速達郵便で発送し、この郵便は同月五日被控訴人に到着した。

6  右5の書面が到着したので、被控訴人は藤原スエコとの呉服売買取り引きを行うこととし、同月一二日に最初の商品(訪問着、代金一九万〇五五〇円)が藤原スエコに引き渡された。

二  被控訴人は、控訴人の手紙到着前に保証契約締結の申込をしたと主張し、前記一1のとおり、被控訴人が保証人に関する発言をしていることが認められる。

しかしながら、主債務者との契約前に保証人が必要であるから、これをつけるようにとの債権者の発言は、主債務者に対する契約条件の提示に過ぎず、保証人に対する保証契約締結の申込の意思表示ではないと解される。

債権者としては、主債務者の提示する保証人の信用性を検討してから、取り引きを行うかどうかを決定するのが通常であって、主債務者との契約を行うかどうかが未確定の時点で、まだ誰かもわからない者に対して保証契約を締結するとの正式な契約申込の意思表示をしたと解するのは実体に即しないからである。

そうすると、右の発言は控訴人に伝えられたとしても、本件保証契約締結の申込と解することはできず、他に被控訴人の保証契約申込を認める証拠はない。

被控訴人は他に保証契約についての、被控訴人の申込承諾の主張をしないから、この点で被控訴人の請求は理由がない。

三  更に、被控訴人は、藤原スエコに対し、前記一4、5のとおり、控訴人が保証人として不適切であるから、他の者を保証人とするように伝え、これは藤原スエコを通じて控訴人に伝えられているから、被控訴人は控訴人の保証契約の申込を拒否したものと認められる。

四  そうすると、被控訴人と控訴人との間の本件保証契約は成立していないから、その履行を求める本件請求は理由がない。よって、本件請求を認容した原判決は相当でないので、これを取り消し、被控訴人の本件請求を棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官河田貢 裁判官高田泰治)

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